■総評(GOOD)
・最初から最後まで手に汗を握る緊張感の連続
・「戦場体験映像」と言うべき凄まじい臨場感
・ノーランの作家性と戦争映画が見事に融合した新しさ
・ノーラン作品としても戦争映画としても最高傑作と言える出来栄え
■総評(BAD)
・所々、音楽の主張が激しすぎてうるさく感じる
・「わざと分かりづらく作られている」のが合わない人も居そう
・IMAXで観たかどうかで評価が大きく変わりそう
<目次>
■IMAXシアターでの鑑賞が前提の映画である事について
本作はIMAX本来のサイズを想定して作られており、
日本でそれを見られるのは大阪エキスポシティの次世代IMAXのみ。
<日本で唯一>『ダンケルク』IMAX®次世代レーザーについて - 109シネマズ | 109CINEMAS
上記の画像を見ても分かるように、
通常のスクリーンと70mmフィルム(IMAX次世代レーザー)では、
映される範囲が大きく違う。
というか、IMAXデジタルと次世代レーザーでも相当な差がある。
1回目を川崎のIMAXデジタルシアターで、
2回目を大阪エキスポシティIMAX次世代レーザーで鑑賞したが、
次世代レーザーでの上映が始まって1秒で「これは全く異なる体験になる」と感じた。
(僕は今回が初めてのIMAX次世代レーザーでの鑑賞である。)
これはもういくら言葉で説明しても伝わらないので、実際に見てもらうしかない。
舞台となる広大な海や空を描く為に、わざと大きな余白が有るように撮影されている。
クリストファー・ノーランは批判覚悟で「IMAXの為の映画」を作ったのだと思う。
最低でもIMAXデジタルで見ないと、作品自体への評価が大きく変わるだろう。
映像面だけではなく、音の迫力の問題も有る。
音とBGMが非常に重要な映画なので、
その点でも音響にこだわっているIMAXで見るべきである。
または、立川シネマシティの極上爆音上映や、
川崎チネチッタのLIVE ZOUNDのように、
特別に音響に力を入れている劇場であれば
IMAXでなくても足を運ぶ価値は有ると思われる。
■IMAX次世代レーザー上映の弱点
次世代レーザーでの鑑賞では気になる点も有った。
「IMAX70mmフィルムで撮影されていないシーンも有る」という事である。
そのシーンでは上下に大きな黒帯が表示されてしまうのだ。
IMAXデジタルでの上映ではそこまで気にならなかったが、
次世代レーザーでは画面一杯に映像が広がっている時と
上下に黒帯が表示されている時の差が大きくなり目立ったのだと思う。
画面サイズの切り替わりが頻繁なシーンも一部有ったので、
せっかくの没入感が失われてしまうのが残念であった。
■クリストファー・ノーランの描く戦争
本当に凄まじくて、素晴らしくて、恐ろしい映画だった。
まず、何と言っても、
「これは紛れもなくクリストファー・ノーラン作品だ!」
と叫びたくなる”ノーランらしさ”が大爆発している。
複数の時間や空間をごちゃ混ぜにした作品を作っていた。
本作では陸、海、空の3つの視点を描いており、
それぞれ違う「場所」と「時間」がラストに向けて収束していくのは、
まさにノーランが得意とする手法だった。
独特の淡々とした描写もノーラン作品では共通している。
戦争映画といえば銃弾が飛び交い、血が飛び散り、人が吹き飛ばされるような、
グロテクスで痛々しい描写で恐怖を感じさせてきた。
しかし、本作ではそういった演出はほとんど無い。
血が映される事すらほとんど無かった。
しかし、淡々と描写される戦場の全てに恐怖を感じるのである。
波に揺れる船、広がる炎、戦闘機が迫ってくる音など、
何もかもが「怖い」ので気を抜くことが出来ない。
■これまでになく新しい映画
上記で述べたように、”ノーランらしさ”と”戦争映画”が見事に融合している。
それによって、クリストファー・ノーラン作品としても、戦争映画としても、
これまでに無い新しい映画になっている。
映画というより、もはや「戦場体験映像」と言うべき作品だと思う。
はっきり言って、ドラマ性やキャラクターの描写はほとんど無い。
台詞も極端に少ない。
戦場でたまたま選ばれた人をカメラで追っているような内容だ。
そう言うと単調で面白く無さそうに感じるが、
そこに”ノーランらしさ”が加わる事でサスペンス性が加わり、
とてつもなく面白い作品になっていた。
「面白い」という言葉自体がこの映画にふさわしくないと思えるので、
どう言って良いのか難しい。
「凄かった、怖かった」という、
ジェットコースターに乘ってきたような感覚が近いかもしれない。
戦争映画版マッド・マックス:怒りのデスロード、
と言うのが個人的には一番しっくり来る。
余談だが、偶然にも、どちらも主演がトム・ハーディである。
トム・ハーディはイケメンで演技力も有るのに、
台詞がほとんど無かったりほぼ顔が隠れている役が多いのは何故だろうか……。
■良くも悪くもノーラン作品
散々述べてきたように、
クリストファー・ノーランの作家性が非常に濃い作品である。
それゆえに、人によっては音楽がくどいと感じたり、
わざと分かりづらく描いているのが合わない事も有ると思う。
しかし、その作家性の強さこそが、本作が傑作となりえた要因なのは間違いない。
序盤の”訳の分からない状態”が戦争映画としての緊張感に大きく役立っていた。
ノーランにしか作れないし、
ノーランが作ったからこそ面白い戦争映画なのが「ダンケルク」であった。
唯一無二だからこそ、ノーランが再び戦争映画を作る事は無いだろう、と思う。
ヒーロー映画、SF映画、戦争映画など、
全く異なるジャンルで強い作家性を発揮し続けるノーランが
次にどんな映画を作るのか非常に楽しみだ。