■総評(GOOD)
・主人公が戦場に行くまでの前半パートが非常に面白く、これだけで一つの作品として成り立つ程良く出来ている
・主人公の父親役であるヒューゴ・ウィーヴィングが印象的で素晴らしいキャラクター
・とてつもない過激さで描いた地獄のような戦闘シーンが凄まじい
・丁寧に描いた前半パートのお陰で、後半の戦場パートで受けるインパクトが絶大
■総評(BAD)
・主人公の持つ宗教観や、沖縄戦の背景等、ある程度の前知識が必要
・ハクソー・リッジというタイトルが合っていないように思えた
・終盤の展開が間延びしており、終わり所を間違えたという印象を受けた
- ■戦場に行くまでがこの映画の本質、と思えるほど面白い前半パート
- ■そして前代未聞の過激さで描かれる戦場へ
- ■深く楽しむためにはある程度の前知識が必要
- ■ハクソー・リッジ(前田高地の戦い)は映画のメインではない
- ■以下、ネタバレあり
■戦場に行くまでがこの映画の本質、と思えるほど面白い前半パート
映画前半では、主人公が信仰心に目覚める少年時代から、
「人を殺す為の銃は絶対に使わない」
という信仰心を抱えたまま軍に入隊し軍部と対立する様子が描かれる。
この前半パートが非常に面白い。
「銃を取らない人間は軍に必要ない」と様々な嫌がらせに耐える主人公。
出兵する前から最悪の状況の中で奮闘し、
一人の兵士としての立場を勝ち取るまでのドラマが熱い。
特に父親役のヒューゴ・ウィーヴィングが素晴らしい。
戦場での体験からトラウマを抱えアルコール中毒に陥っており、
息子二人が入隊する事にも断固反対する。
主人公の弟が入隊を決めた際の食事シーンで、
戦場の悲惨さを語るヒューゴ・ウィーヴィングが非常に印象的だった。
■そして前代未聞の過激さで描かれる戦場へ
人間ドラマを丁寧に描いた前半パートから一転し、
徹底的な人体破壊描写が炸裂する戦場を舞台とした後半パートが凄まじい。
容赦なく血と臓物が飛び散り、仲間が次々と死んでいく壮絶さ。
沖縄戦はアメリカの戦争史の中でも「全ての地獄が入った戦い」と言われたそうで、
敵味方入り乱れての歩兵戦の悲惨さがこれでもかと描かれている。
この中で武器を持たずに衛生兵として立ち回る主人公は、まさに狂気的。
■深く楽しむためにはある程度の前知識が必要
キリスト教に馴染みのない日本人では、中々主人公に感情移入しづらいと思う。
重要な意味のあるシーンでも、
キリスト教についての知識がなければ分からないまま終わってしまう。
この手の問題はアメリカ映画では良く出てくるが、
本作は主人公の信仰心が肝である映画なので特に強く感じた。
そういった知識がなくとも映画「沈黙-サイレンス-」を予め見ておくと良いと思う。
宗教観と信仰心について非常に丁寧に描いている映画だし、
主人公役が同じアンドリュー・ガーフィールドであるというのがまた凄い。
両作品の主人公の辿る結末を見比べるのも非常に面白い。
沖縄戦についても背景が全く語られないので、
日本側の決死の抵抗の悲壮さが伝わらず
「単なる映画としての敵」に思えるのも残念。
(日本軍側の切腹シーンが有ったのにはメル・ギブソンのこだわりを感じたが。)
これは、岡本喜八監督の「激動の昭和史 沖縄決戦」を観ておくのをお勧めしたい。
沖縄戦が始まる前から集結までの経緯を丁寧に、かつテンポ良く描いた名作で、
エヴァンゲリオンやシン・ゴジラの庵野秀明監督が「人生で最も多く見た映画」と言っている程である。
(庵野作品は岡本喜八作品に強く影響を受けているのが分かるので見ると面白い。)
■ハクソー・リッジ(前田高地の戦い)は映画のメインではない
あくまで個人的な意見では有るが、これは戦争映画ではないと思った。
確かに強烈な戦場の描写はこの映画の大きな要素では有るが、
これは「主人公の信仰心をかけた戦いを描いた作品」であって、
その戦いの場がたまたま戦場であり、たまたま沖縄戦であっただけ、
という印象である。
鑑賞前は「沖縄戦が舞台というのを宣伝で言わないのはどうなんだ?」
と疑問を抱いていたが、
観た後は「ことさら沖縄戦である事をアピールする映画ではないな」
と考えを改めた。
ゆえに、「そもそも映画のタイトルが作品に合っていないのでは?」と感じた。
■以下、ネタバレあり
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終盤までは間違いなく大傑作であったが、終わり方が非常に残念であった。
まず、主人公が次々と負傷者を助けるシーン。
これがしつこ過ぎてやや退屈さを感じてしまった。
あまりにもヒロイックな描写も、それまでの雰囲気から離れていたように思える。
その上で、主人公の活躍を知った仲間が士気を上げて最後の攻撃に出るのだが、
ここで「アメリカ兵が次々と日本兵を倒して勝利して終わり!」となってしまう。
先にも述べたが、あくまで戦場はこの映画にとって舞台装置であり、
主人公の活躍を描く上では最後の戦闘シーンは不要だったと思う。
恐らく(アメリカでの)観客受けを狙っての終わり方だと思うが、
それまで日米両方の兵士がバタバタと倒れていく公平さを保っていただけに、
最後の最後でアメリカ万歳とも思える演出になっていたのが不自然であった。
そうでなくとも、映画としてのテンポが悪く興冷めしてしまう展開であった。
なにせ、最後の戦闘では主人公はほぼ出番がなく、怪我して退場して終わりなのだ。
終わり方が残念だった事も有り、
やはりこの映画の肝となるのは戦場に行くまでの前半パートであると感じた。