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映画の感想・解説やゲームの話

【映画感想・解説・考察】マトリックス レザレクションズ【ネタバレ有】

■総評(GOOD)

・前三部作とは違った方向性の映像美

マトリックスファンとしては最高の続編

マトリックスの設定を生かした新たな構造が素晴らしい

・シンプルで熱い王道展開も有って嬉しい

・音楽のセンスも相変わらず最高

 

■総評(BAD)

マトリックス好きではなく、内容を覚えていない人は全く楽しめないと思われる

・アクションはやや地味で物足りない

 

 

■最高の「続編」

本作を実際に見るまでは、

続編なのか?リブートなのか?まったく別の何かなのか?

といった事が全く分からない情報量の少なさだった。

 

前三部作で綺麗に終わっていただけに、

今になって続編をするのは楽しみ半分、不安も半分であった。

 

が、そんな不安を吹っ飛ばしてくれる、最高の「続編」であった。

 

■新たなビジュアル

前三部作で印象的だったのは、

スタイリッシュな衣装と、

意図的に色味を抑え薄緑のフィルターがかかったような映像の美しさ。

 

しかし、今回はそのどちらもない。

みな現実的な服を着ており、スタイリッシュさは控えめ。

 

ただし色味は増えており、色彩豊かな絵になった。

 

後に解説するが、ネオを襲撃したエグザイル(漂流者)も、

以前のキメッキメのスタイリッシュな姿はなく、

マッドマックスに出てくるような小汚い姿になっていた。

 

全く方向性が異なるが、しかし美しい映像美は凄く良かった。

 

マトリックスらしさが無いのは残念だったが、

しかしそれを楽しみたければ前三部作を見ればいいわけで、

大胆に方向性を変えたおかげで楽しめた。

 

とは言え、終盤のシーンでは、

前三部作に近づけた絵作りも有ったので大満足。

 

■アクションはやや地味

上記で述べたように衣装等が現実的に落ち着いたのと合わせて、

アクションシーンも前三部作と比べると控えめ。

 

アクションシーン自体は多くアクションマシマシで有ったが、

ワイヤーアクションやバレットタイムの多用はなく、

ジョン・ウィックに少しマトリックス要素を足したような印象。

 

アクションや映像面での革新性は感じられなかったが、

だからと言ってそれがマイナス要素になる事は無かった。

 

■ざっくりとストーリー解説

複雑な構成で説明不足な所も有り、

一回見ただけ理解をするのは非常に難しい。

 

ので、以下は勘違いや分かっていない部分も含まれる、

というのが前提。

 

オープニング

マトリックス1作目でトリニティがハッキングを仕掛けていたシーンが流される。

 

しかし、出てくるエージェントは1作目とは別人である。

 

それを後ろから見ている新キャラクター、バッグス。

バッグスは「古いコードだ」「このシーンを知っている」といった発言をする。

 

そして1作目通りエージェントに追われるトリニティと並行しつつ、

バッグスもエージェントに追われるという訳が変わらない展開。

 

さらに、追ってくるエージェントのうちの一人は、

自分が「モーフィアス」であると名乗る。

もう何が何だか分からない。

 

モーフィアス自身も、バッグスを殺そうとしているはずなのに、

なぜかバッグスを助けてしまい混乱している。

 

バッグスはモーフィアスを見つけたことを喜び、

さらにトーマス・アンダーソン(ネオ)の痕跡も見つける。

 

ネオ(=トーマス・アンダーソン)の現在

前三部作で死んだはずのトーマス・アンダーソンは、

なんと大ヒットゲーム「マトリックス」の開発者として登場。

 

レボリューションズでアップデートされたマトリックス内では、

前三部作で起こった出来事をゲームとして取り入れたのだ。

 

木を隠すなら森といった感じで、

大胆にもマトリックスで起きた事件をゲームとしてマトリックス内に残したらしい。

 

そして、トーマス・アンダーソンはそのゲームの開発者と言う設定になっている。

 

このメタにメタを重ねた設定で、

最初は「前三部作は本当にゲームだったという事になったのか?」と混乱した。

 

トーマス・アンダーソン自身もゲームの内容と現実の区別がつかない状態で、

精神的に不安定になっている。

 

主人公と観客の混乱と不安が一致する演出が素晴らしかった。

 

トーマス・アンダーソンはカフェで度々会うトリニティ

(現在はティファニーという名前で、夫や子供もいる)の事が気になっており、

ティファニー自身もゲームマトリックスに出てくるトリニティに親近感を持っている。

 

トーマス・アンダーソンと握手をした際は「会ったことが有る?」と困惑した。

 

再びの目覚め

なんやかんやあり、

ネオが生きていることを知ったバッグスやモーフィアスが接触してきて、

ネオは再度マトリックスから現実の世界へ目覚める事になる。

 

ザイオンは機械生命とも共存する形で発展を遂げており、

以前よりはずっと豊かな暮らしが出来るようになっていた。

 

ちなみに、現実世界では前三部作から60年以上が経過している。

 

そして、ネオはトリニティも生きている事を知り、

バッグス達と協力して奪還作戦を実行する。

 

さて、ここで難しくなってくるのが、マトリックス内の状態だ。

 

モーフィアスについて

モーフィアス本人ではなく、

モーフィアスのデータとエージェント・スミスが融合した

「クレイジーな存在」であるらしい。

 

生身のモーフィアス本人は既に死亡しており、

今回はデータ上の生命体としての登場になる。

 

映画冒頭でバッグスが侵入していたマトリックス1作目のシーンは、

現在のマトリックス内でゲームとして開発された(事になっている)マトリックスの中での出来事。

 

この辺りよく分からなかったのだが、

トーマス・アンダーソンが新しいゲームを作るために、

ゲームのマトリックスの一部プログラムをループさせ自己進化を促していた模様。

 

ただ、ゲーム上のプログラムとは言っているが、

実際にはマトリックス内で本当にあった出来事なので、

前三部作で起こった事件の記録をそのまま流用しているかもしれない。

 

そして、ネオが無意識にそうしたのか、

他の誰かの介入でそうなったのか分からないが、

ともかくそんな特殊な環境の中でエージェント・モーフィアスが生まれた。

 

モーフィアスとバッグスの邂逅で新たな物語が動き出した事になる。

 

スミスについて

スミスは今回前三部作とは別の俳優が演じている。

 

このスミスは全くの別人という訳ではなく、

レボリューションズでネオに倒された後、

「完全に自由な存在」としてマトリックス内で存在し続けているらしい。

 

トーマス・アンダーソンの上司を演じており、

その目的は一回見ただけではイマイチ理解できなかった。

 

が、ネオの敵という訳でもなく、かといって味方でもないが、

結果的にネオと共闘するシーンもあって最高に熱い展開であった。

 

セラピスト(アナリスト)

今作の黒幕。

 

詳しい説明がなかったのでよく分からないが、

現在のマトリックスを管理している存在。

 

レボリューションズでネオとデウスエクスマキナの交渉の結果、

マトリックスから離れる人間が増えた結果、電力の不足が発生。

機械同士の戦争にまで発展する状態に陥った。

 

そこでセラピストが目を付けたのが、ネオの存在である。

 

ネオをマトリックスに繋ぐことで大きなエネルギーを得られる事に気づき、

ネオを蘇らせ、偽の記憶を植え付けてマトリックス内で操っていた。

 

トリニティについて

ただ、ネオ単体では安定せず、

トリニティと「程よい距離」を保たせるのがコツだという。

 

なのでトリニティも生き返らせて、

同様に偽の記憶を持たせてマトリックス内でネオの近くに配置した。

 

しかし、バッグス、モーフィアスと出会って目覚めたネオが、

トリニティを救出しに行くというのが今回の最終目標となる。

 

サティについて

元々は、マトリックス内のプログラム同士の夫婦から生まれた存在。

 

明確な目的を持たない存在として生まれたため、

マトリックス内でエグザイル(漂流者)として存在している。

 

ネオとトリニティの肉体が入れられている特製ポッドを開発したのが

サティの父親であったプログラムだったと言い、

トリニティ奪還作戦を手伝う。というか指揮を執る。

 

ちなみに、エグザイルとはマトリックス内のプログラムのうち、

故障やバージョンアップ時に廃棄されるはずだったのに生き残った者の事。

 

前作でエグザイルとして出ていたメロビンジアンもネオにちょっかいを出す為に、

ちょろっと出てきて「スピンオフでまた会おう!」とメタな軽口を叩いて退場した。

 

ラスト

色々あってトリニティの救出に成功。

ネオは最後まで全盛期の力(空を飛ぶ能力)を取り戻すことが出来なかったが、

トリニティが救世主の力を獲得し、セラピストを撃破。

 

マトリックスの管理者権限を奪い、マトリックスを良くするために旅立つ。

 

マトリックスらしさ、とは何か

と、ストーリーをざっと説明したうえで、「マトリックスらしさ」について。

 

映画内でも「ゲームのマトリックス三部作の続編を作る」という話があり、

その際に「マトリックスの続編に必要なマトリックスらしさ」について語り合うシーンがある。

 

「派手なアクション!」「バレットタイム!」「革新性!」といった言葉が飛び交い、

非常にメタなシーンで有った。

 

しかし、本作を見て改めて思うのは、

赤と青のピルを象徴とする、

「選択」という要素がマトリックスらしさだという事だ。

 

多くのシーンで、「選択」を求められる。その結果、何かが起こる。

 

■凄くラナ・ウォシャウスキー監督の私的な作品、かも

その点でいうと、レボリューションズのラストはほとんど選択の余地がなく、

状況に流された結果ネオもトリニティも死亡するという結末を迎えたように感じる。

(あれはあれで、

キリスト教文化のアメリカ映画として相応しいものではあったとも思うが。)

 

そして、ラナ・ウォシャウスキー監督は、

両親の死をきっかけに本作を作る事にしたそうだ。

 

これは完全に僕の想像になるが、両親の死を経験して、

「選択の結果、ネオとトリニティが結ばれ幸せになる」

というラストを作りたくなったのでは?と思う。

 

また、ラナ・ウォシャウスキー監督は前作を制作した時は男性であったが、

性転換を行い今は女性として生きている。

 

前作までは「ネオの選択と結果を信じて戦うトリニティ」であったが、

今作では「トリニティの選択と結果を信じて戦うネオ」と構造が逆転し、

また、トリニティが救世主として目覚めたのも、

監督自身の性が男性から女性に変わった事と無関係ではないと思う。

 

作中でも「マトリックスのゲームの続編を作る」となった際、

望まない続編を作らされるトーマス・アンダーソンは苦悩していた。

 

同様に、ラナ・ウォシャウスキー監督も続編の検討を促され、

必要性のない続編を作らなければならないのか?と苦悩したはずだ。

 

しかし、「マトリックスの続編を作りたい、作るべき」と、

監督自身の経験から生まれたのが本作だと思う。

 

なので、マトリックスファンとしても、

凄く納得できるし楽しめる作品になっていたのではないだろうか。

 

■音楽について

最後に、音楽について。

 

マトリックスシリーズは音楽のセンスの良さも欠かせなかったが、

今回も最高だった。

 

まず、予告編でも使われていた、

Jefferson AirplaneのWhite Rabbit。

Jefferson Airplane - White Rabbit (Official Lyric Video) - YouTube

 

本編でも、トーマス・アンダーソンが夢か現実か分からない日常をループしている、

印象的なシーンで流れていた。

 

そして、

Rage Against The MachineのWake Up。

Rage Against The Machine - Wake Up (Audio) - YouTube

 

一作目のエンディングでも使われて強烈な印象を残していたが、

今回は女性ボーカルのカバーバージョンがエンディングで使われていた。

 

レザレクションズのエンディングで再びWake Upが流れた瞬間、

色々な思いがこみ上げてきてちょっと泣きそうになってしまった。

この選曲は本当に最高であった。