椅子と椅子の間から観る

映画の感想・解説やゲームの話

【映画感想】君たちはどう生きるか【ネタバレあり】

■総評(GOOD)

・物語がどうなるか予想がつかない前半の不穏さ

・圧倒的な物量のアニメーション表現

・夢を見ているような奇妙な感覚

宮崎駿が好きなようにやっているのが伝わってくる

 

■総評(BAD)

・ストーリーの流れやキャラの感情の変化が分かりづらい

・色々と不明な設定も多いので、明確な答えを求める人には不向き

 

 

なんか分からんがとにかく凄い

凄い作品だった。

 

ストーリーはメチャクチャだしキャラの行動原理も意味が分からない部分が多く、

意味ありげで意味が分からない描写がとても多い。

 

でも、一貫した信念や魅力的な世界観は素晴らしい。

 

宮崎駿がやりたいようにやり、

日本のアニメーション界の匠が結集したアニメ表現は圧巻。

 

見終わった時は変な夢を見たような気持ち悪さと、

良い作品を見たあとの爽快感が混在する不思議な感覚になれた。

 

色々な解説や考察をしているサイトは多数あると思うので、

それらはそこに任せて、個人的に良かったと思う点を2つ書きたい。

 

「現実に帰る」という強固な意志を貫く主人公

1つ目は、ファンタジー世界に一切の未練を持たない主人公。

新しい母を助け出し現実に戻る、という姿勢を全く崩さないのだ。

 

近年はいわゆる「なろう系」を筆頭に、

異世界に行った主人公がそのままその世界に戻るパターンが王道だ。

 

一昔前は現実の世界に戻るパターンが多かったように思うが、

それでも「異世界に残るかどうか」悩む描写は見られた。

 

それだけに、本作の主人公の姿勢は、新鮮で魅力的だった。

 

素晴らしいアニメーションを多用するファンタジー世界が魅力的な一方、

家族の待つ現実に戻り、成長した弟と都会に戻るラストシーンは凄く良かった。

(出来れば、弟が産まれるシーン等、もう少し弟との交流を描いて欲しかったが。)

 

宮崎駿の凄く私的な作品

ここからは推測ばかりになるが、

作中の「12の積み木を組み立てて作っている世界」というのは、

宮崎駿が主に手掛けた12の作品」のメタファーになっていると思う。

 

「13個めの積み木を加え世界を受け継ぐ」ことを拒否し現実に戻る事を選んだ主人公は、

宮崎駿の息子である宮崎吾朗へのメッセージではないかな?と感じる。

 

空想の世界を受け継ぐことなんて無理な話で、

そんなもの受け継がずに自分の大事なものを優先して生きれば良い

というポジティブな主旨のストーリーだったように思った。

 

これはもちろん、息子である宮崎吾朗だけではなく、

作品を見た人全てに当てはまる普遍的なメッセージでもあると思う。

 

逆に、「後継者が現れなかった事を嘆いている」ネガティブな作品だと受け取る人も居るだろう。

実際、そう解釈している人の声も複数見かけた。

 

このように、「見る人によって全く違う感想が出てくる」のが、

2つ目の良かった点。

 

これまでの宮崎駿作品は母性を感じるキャラクターが目立つ印象だったが、

今回は大叔父や父親など、父性を感じるキャラクターが印象的だった。

 

ここからも、「父親である宮崎駿」による私的な手紙をアニメにしような作品なのかも?

と想像している。

 

でも、作家性の強い作品というのは、そういう個人的なもので良いと思う。

だからこそ尖っていて、他にない独自の魅力を持った作品が生まれるのだ。